2004年5月21日金曜日

上反角と旋回

1. 上反角効果による安定
2. ラダー旋回のしくみ(上反角効果が必須)
3.「ダッチロール、スパイラル」と「上反角、垂直尾翼」の関係
を説明しました。
全てが関連した話なので、ばらばらに説明するより、統括的に説明したほうがわかりやすいと考え、今回は全部まとめて説明することにしました。

1. 上反角効果による安定
上反角効果を振り子に例えて説明している文章がありますが、これは間違いです。
まず、振り子安定について説明します。その後、上反角効果による安定について説明します。そのことで、振り子安定との違いも含め、上反角効果による安定が理解できると思います。
振り子安定の場合
20040520Fig1.JPG20040520Fig2.JPG
Fig.1は振り子の重りに重力がかかっているところです。
重りにかかっている力を振り子の支点方向の力とその直角方向の力に分解したのがFig.2です。支点方向の力を「緑→」で、その直角方向の力を「赤→」で表しています。
直角方向の力が、右腕では右回転、左腕では左回転を起こそうとしていますが、その力は同じなので、どちらにも回転しません。
20040520Fig3.JPGFig.3は振り子が右に傾いたところです。
左右の直角方向の大きさに違いがでて、左に回転しようとします。
つまり、傾きを直そうとするわけです。
これが振り子安定です。

飛行機の上反角の場合
20040520Fig4.JPG20040520Fig5.JPG
Fig4.は飛行機を真後ろから見た図で、主翼に揚力が発生しているところです。
揚力は主翼面全体に発生し、主翼面に直角に働きます。
Fig.5は面にかかっている揚力を右翼、左翼それぞれ代表して1つの力「赤→」に表しました。
右翼は左ロール、左翼は右ロールを起こそうとしていますが、その力は同じなので、どちらにもロールしません。
20040520Fig6.JPGFig.6は、飛行機が右に傾いたところです。
揚力は主翼面に直角に働くのは変わっていないので、左右にロールはしません。
飛行機の重さは地面の方向に働いているので、揚力の方向とずれ、右にスライドする力が働きます。

Pic.1は飛行機を上から見たもので、右にスライドしている状態の空気の流れを「→」で表したものです。
20040521Pic1.JPG空気が主翼に対して右斜め前から流れています。
この時、主翼に上反角があると左右で主翼の迎え角に違いがでます。

主翼の迎え角の違いが判るように、空気の流れてくる方向から飛行機を写した写真がPic.2とPic.3です。
20040521Pic2_3.JPG
Pic.2は直線飛行しているところで、左右の主翼が同じように見えます。左右の翼への空気のあたり方は同じです。つまり、左右の揚力は同じで、Fig.5と同じ状況です。
Pic.3はPic.1を空気の流れてくる方から飛行機を写したものです。右の翼(写真では、向かって左の翼)の翼下面が見えるので迎え角が大きくなっているのが判ります。これは、上反角があるからです。したがって右翼揚力が大きくなり、左ロールする力が働きます。つまり、飛行機の傾きを直そうとするわけです。
これが上反角による安定です。
2. ラダー旋回のしくみ(上反角効果が必須)
ラダーによる旋回では、上反角効果が無いと旋回できません。
これを、右に旋回するケースについて説明します。まず、ラダーでノーズを右に向けるようにヨーイングさせます。
20040521Pic4_5.JPG
Pic.4はラダーを右に操舵することにより、垂直尾翼の左側に揚力が発生します。その揚力を「赤→」で表しました。そのことで右にヨーイングします。
飛行機が右にヨーイングしても、飛行機の進む方向は変わらないので、左にスライドしている状況になります。Pic.5は左にスライドしている状態の空気の流れを「→」で表したものです。空気は左斜め前からあたることになります。ここで、上反角があれば「1. 上反角効果による安定」で説明したように、上反角効果で右に傾きます。そのことで、右にスライドし、進行方向が変わります。つまり、旋回したわけです。ここで、ラダーが操舵された状態のままだと、さらに、バンクが増し、旋回が続きます。
次に、この状態でラダーをニュートラルに戻すと、垂直尾翼のラダーによる揚力は無くなります。しかし、飛行機はまだ右に傾いたままです。右に傾いているので、右スライドはさらに続きます。
20040521Pic6.JPG右にスライドしているということは、「1. 上反角効果による安定」で説明したように、上反角効果によりバンクが戻ろうとしますが、それと同時に垂直尾翼にも斜めから空気があたるので、右にヨーイングする力が発生します。(Pic.6)つまり、垂直尾翼の風見効果で右に旋回するわけです。
つまり、ラダーをニュートラルに戻すと、右旋回を続けながら、徐々にバンクが戻り、やがて直線飛行に戻るわけです。

これが、ラダーによる旋回です。上反角効果がないと、ラダーでヨーイングさせても、飛行機がロールしないので、旋回できないのです。
3.「ダッチロール、スパイラル」と「上反角、垂直尾翼」の関係
2.で話した飛行機は、上反角と垂直尾翼が適正な関係がある場合です。この関係が悪いと、これからお話する、ダッチロールやスパイラルという現象を引き起こします。
ダッチロール
ダッチロールは、上反角が大き過ぎるか、または垂直尾翼が小さ過ぎる場合に起こす飛行機の挙動です。
それでは、ダッチロールを引き起こすような上反角と垂直尾翼のバランスが悪い飛行機が右に傾いた状態から話を始めます。
飛行機は右に傾いたので「1. 上反角効果による安定」で説明したように、右にスライドを始めます。[Stat.1]飛行機は右斜め方向に飛行するわけです。上反角効果により、左ロールし始めます。主翼の傾きが元に戻ってもロール運動を止めるものはないので、さらに左にロールします。右スライドも以前続いています。[Stat.2]主翼が左に傾き始めると、左にスライドする力が働くので、右スライドはやがて止まります。[Stat.3]
しかし、左スライド力はそのままなので、左にスライドを始めます。左にスライドし始めると、左に傾いていた翼は上反角効果により右にロールし始めます。主翼の傾きが元に戻ってもロール運動を止めるものはないので、さらに右にロールします。左スライドも以前続いています。[Stat.4] 主翼が右に傾き始めると、右にスライドする力が働くので、左スライドはやがて止まります。[Stat.1]
この挙動はジグザグ飛行の幅が徐々に小さくなっていく傾向にありますが、しばらく続きます。
20040520DutchRollFlight.jpg
このように、ジグザグに飛行する現象をダッチロールといいます。
スパイラル
スパイラルは、上反角が小さ過ぎるか、または垂直尾翼が大き過ぎる場合に起こす飛行機の挙動です。
それでは、スパイラルを引き起こすような上反角と垂直尾翼のバランスが悪い飛行機が右に傾いた状態から話を始めます。
飛行機は右に傾いたので、右にスライドを始めます。 右にスライドを始めた段階で、「Pic.6」で説明したように、垂直尾翼にも斜めから空気があたるので、右にヨーイングする力が発生します。しかし、バランスが悪く垂直尾翼の効果が大きすぎて、右ヨーイング力が過大になり、ノーズはさらに右に向いてしまいます。ノーズが右向いているという事は、空気は左前から流れる事に成り、上反角効果でさらに右に傾こうとします。そのことで、さらに右スライドは大きくなり、そのことで、さらに右にヨーイングし、そのことでさらに右にロール・・・・・・。となり、飛行機は墜落します。
以上のように、上反角と垂直尾翼のバランスが悪い飛行機に現れる挙動がダッチロールとスパイラルなのです。
スパイラルは初心者にとって即、墜落につながるので、一般的に初心者用の飛行機は上反角を大きめにして、ダッチロール気味に設計されているものが多いです。

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